Time is gone

「ここら辺じゃヤマメは釣れない。多摩川の上流まで行かないとだ。そんなことしていたら、一日が潰れる」
「春休みなんだし、一日くらいいいじゃん? お前最近、息詰まってるって言うか、根詰まってるって言うか、とにかく見ていて痛々しいんだよ。だからたまには……」
「お前みたいに成績が順調に伸びていればいいさ! 俺はこのままじゃ、第一志望どころか、都内の国立は絶望的なんだよ!」
 僕はそう吐き捨て、一方的に電話を切った。
 剛は心配してくれている。その優しさは素直に嬉しい。だがそれ以上に、妬ましくもあった。
 剛はこのまま順調に成績が伸び続ければ、第一志望も安全圏だ。僕がさぼっていた間も、一人コツコツと努力を重ねてきたのだから、当然と言えば当然だ。それを逆恨みするのは間違っている。分かってはいるが、感情をコントロールすることができずにいた。理性と感情の、板挟みにされていた。