正しい時計の使い方を学んだ僕は、順調に時を進めていった。そして季節は変わり、春休みを迎えた。時間は日曜の夜十時過ぎ、一週間分の記憶を整理していると、携帯が着信を知らせた。
「おぅっ光彦、あれっ、寝てた?」
電話の相手は剛だ。時を進める生活には慣れた。だが未だに、その直後に感じる時差ボケのような感覚には慣れずにいた。
「いや、起きてはいたけど……何の用だよ?」
「友達からの電話に何の用だ、はないだろ? まぁそれは大目にみるとして、明日、暇か?」
受験生に暇何てあるわけないだろ! 僕は内心でそう叫んだ。今や僕も、気持ちだけは立派な受験生だ。
「暇ならさ、どっか遊びに行かないか」
「いや、そんな余裕はないよ。明日も朝から塾に缶詰のつもりだし」
「そんなつれないこと言うなよ。たまには息抜きも必要だぞ。なんなら、お前の大好きな釣りなんてどうだ? この季節なら、ヤマメなんかも釣れるんじゃないのか?」
能天気な剛のペースに、僕は溜息を漏らした。



