Time is gone

「犯人は、時計が、時計が、そう繰り返し呟いているとのことですが……」
 その時計とは、もしかして……。
 僕は固まった。殺人事件の現場、時計を釣り上げた場所、そして時計の能力、それらのことから、僕が釣り上げた時計に間違いない。
 どのような経緯かは分からない。だが女はこの時計を川に捨てた。それに逆上し、犯人は女を殺してしまった。そして僕が、それを釣り上げてしまった……。
 時を自由に進めることができる奇跡の時計だ、犯人の気持ちも分からなくはない。だがそんな曰く付きの時計を、持っていていいのだろうか。この時計を巡り一人の人間が殺され、一人の人間が殺人犯となった。いや、それだけではないかもしれない。この時計を巡り、沢山の人がその運命を狂わされてきた可能性もある。
 僕の体は細かく震えていた。近所で起こった殺人事件の、その渦中に巻き込まれてしまったという、底知れぬ恐怖から。そしてその原因となった時計が今、自らの手中にあるという、紛れもない事実から。