Time is gone

 乱れた呼吸を整えている内に、最終電車がホームに滑り込んできた。俺は降りてくる人々を押しのけ、強引に身を捻じ込ませた。
 男は目を覚ましただろうか。時計がないことに気付いただろうか。いずれにせよ、電車に乗ってしまえばこっちのものだ。
 ほどなくして扉は閉まり、ゆっくりと動き出した。徐々に加速する電車。ホームの景色がスピードを増して流れていく。そのとき俺は、確かに目にした。豪快な鼾をかいて眠っていた男が立ち上がり、俺の目を見てニヤリと笑ったのを。
 ……ばれていた。
 背中を一筋の汗がつたった。
 だが男の表情は、盗んだことを非難するようなそれではなかった。むしろ、計画どおり、という余裕の笑みだった。
 俺はこの時計を拾わされたのか。そのためのタヌキ寝入りだったのか。なぜそんなことをした。……何のために。