Time is gone

 万引きをしたことはある。高校時代のことだ、もう十年も前になる。あの頃は後先考えずに、好奇心とスリルを求めて安易な真似を繰り返していた。掴まったとしても、精々呼び出しをくらうくらいだった。だが今は違う。捕まれば会社を首になる。いや、それどころではない。取り調べに裁判、下手をすれば刑務所だ。
 俺は恐くなり、時計を持ち主に返そうと右手を動かした。だが、それは頑なまでに動こうとしなかった。時計が、それを引き止めていた。
 そして腕の変わりに、両足が勝手に動き始めた。それは俺の意思を超え、ホームの端へと向かい動き続けた。
 ……ここまで来れば、大丈夫。
 俺の心に過ぎった感情は、罪悪感ではなく、安堵だった。