「………大丈夫?ねぇ、大丈夫?」
えっ?
顔をゆっくり上げていく。
耳に響くガヤガヤと煩い街の音。
さっきまで喧嘩していたカップルは、そこにはもういなかった。
「大丈夫?」
目の前にいる男性が私と同じ目線に膝を曲げて、私の顔を心配そうに見ていた。
「大丈夫」と言おうにも、全力疾走した後のように“はぁ、はぁ”と息が上がって、まだ少し胸が苦しくて声が出ない。
「ゆっくり深呼吸してごらん?」
彼の言うように、ゆっくりと深呼吸していく。
「大丈夫だから……ゆっくり、ゆっくり……」
彼の言う通りにすると、あれだけ苦しかった胸が不思議と苦しさから解放されていた。



