「待てつってんだろーが!」
怒鳴り声にも似た彼氏の低い声。
周りがカップルをジロジロ見ている。
「痛いっ!離してよ!」
「うるせぇ!黙れよ!」
――グワン。
視界が歪む。
「アンタなんか嫌い!死ね!」
彼氏を睨みつける彼女。
「てめぇ……」
彼女を見る彼氏の冷たい目が私の胸を突き刺す。
脳裏に浮かぶ太一の冷たい目。
拳を振り上げる彼氏と太一がリンクする……。
『誰に向かってそんな口の聞き方してんだよ!』
『うるせぇ!』
『てめぇ!殺すぞ』
頭に浮かぶ太一の低い声。
怖い……。
震える体。
歪む視界。
ポタポタとアスファルトにこぼれ落ちる涙。
胸が凄い早さでドクドク鳴り、キューと締め付ける。
ビルのコンクリートの外壁に手をつき、もう片方の手で胸をギュッと押さえた。
倒れそうになる体をコンクリートの外壁に手をついて必死に耐える。
息が上がり呼吸が苦しくなる。
ざわめきも聞こえない。
周りも見えない。
ただ、激しく鳴る胸の鼓動だけが耳に響いていた。



