【完全版】このいっぱいのLove Songをキミに捧ぐ




まるで酔っ払いのオヤジのような足取りで、1人暮らしをしている太一の部屋を出た。


外に出ると、熱気が体中を襲う。


額から背中からタラタラと汗が流れていく。


遠くで聞こえていた蝉の鳴き声が鼓膜を震わせる。


人通りの多い街の中を駅に向かってひたすら歩いていた。


夏休み中の街中は学生で溢れ返り、キャーキャー騒いで煩い。



「待てよ!」



ざわめきの中でクリアに聞こえた男性の声。


その声に反応して体が“ビクン”と跳ね上がり、その場に立ち止まった。


声のする方を見ると、私と年齢がそう変わらない1組のカップルがいて、スタスタ歩く彼女を彼氏が追いかけている。


喧嘩でもしたのか、彼女の顔は怒りに満ちていた。


カップルが私の横を通り過ぎた、その時――……。