「何分前だ!」
「えっと……確か……病院の前で会ったのが10時過ぎくらいで……えっと……」
時計を見ながらブツブツ呟く美香にイライラしていた。
逆算も出来ねぇのかよ。
美香がノロノロしてる間も、どんどん時間が経っていく……。
早く言えよ!
「うちを出たのが、お昼前だったから、もう1時間くらい経ってるかな?」
「はぁ?ちょ、うちを出たって、どういうことだよ?」
意味わかんねぇ。
「うちでお茶でもって誘って、うちでお茶飲みながら話をしたのよ」
「何で……」
何で引き止めてくれなかったんだよ……。
「本当は、健に何も言わないで欲しいって言われたの……。でも最近の健を見てると、黙っとくこと出来なかったの……」
「美香……」
「細野?」
俺達の話を聞いていた吉形が話に入ってきた。
俺は返事をして吉形を見る。
「あのさぁ、ずっと言いたかったんだけど、舞ちゃんがいなくなってからのお前は、魂が抜けたみたいになってさぁ……。
歌詞は間違えるわコードは間違えるわで、来週からツアーが始まるってのに、全くやる気のないお前を見てるとイライラすんだよ。
俺らは迷惑してんだよ」
怒ってるはずの吉形の顔は少し笑っていた。
「吉形……」
「そうだ!舞ちゃんね、行くとこがあるって言ってた……」
行くとこ?
「美香、それどこかわかるか?」
「それは、わからない……。行き先は何も言ってなかったし……」
「そっか……。でも俺、ちょっと行って来るわ」
「おぅ!行って来い!」
「行って来い!」
吉形と美香はそう笑顔で言ってくれた。
俺はジャケットを羽織ると、急いでスタジオを出た。