「妊娠されてるようですね」
先生はそう言うと、人差し指でメガネをクイッと上げた。
「はい?」
にん、しん?
「頭痛やダルさ、吐き気、微熱といった症状は夏風邪や疲れじゃなく、妊娠の初期症状だと思います」
放心状態の私。
“妊娠”の二文字が頭をグルグル回る。
「生理が遅れてるってことありませんか?」
「えっ?生理、ですか?」
頭の中で回る妊娠の二文字を消すように生理の日を思い出していく。
………………ん?あれ?
そう言えば、今月は……。
生理は遅れたことはなく、忙しさで、すっかり忘れていた。
「失礼ですけど……。有坂さんはまだお若い。それに独身。このことはお相手の男性は知ってますか?」
何も言わず、俯いた私を見て、生理が遅れてることを確信したんだろう。
先生はそう聞いてきた。
「いいえ……」
私は首を左右に振った。
「それなら早く産婦人科で診察してもらって下さい。ちゃんと診察してもらって、相手の男性と話し合った方がいい」
再び放心状態の私。
先生の言葉なんか頭に入ってこない。
頭の中には“妊娠”の二文字がグルグル回り始めた。
でも、ここは内科。
もしかしたら何かの間違いかもしれない……。