「………る、さん?」
「聞こえねぇ」
「えぇ~!ちゃんと呼んだよ?」
「もう1回、俺にも聞こえるように言って?」
「…………健さん?」
キャー!恥ずかしい……。
「“さん”付け?呼び捨てじゃねぇんだ……」
「あ、ゴメンね……呼び捨てで呼ぶのは勇気がなくて……」
何でだろう……太一の時にはドキドキすることなく恥ずかしくもなかったのに……。
細野さんの時には初めて恋して、名前も呼ぶのが恥ずかしい……みたいな感じになるのは……。
「俺だって、舞のこと呼び捨てで呼ぶの勇気いったんだから」
えぇ!意外!
細野さんって、女慣れしてそうだけど。
「だから舞も俺のこと“さん”付けじゃなく呼んで?」
「えっ?ムリムリ!健さんが限界」
私は頭を左右にブンブン振った。
「そっか、まぁ、名字で呼ばれるよりはいっか」
健さんが“アハハ”って笑って頭をポンポンとした。
太一を凄く大人の男性に感じてたけど、健さんは太一よりもっともっと大人で、私みたいな子供が彼女でいいのかな?と思う反面、健さんと同じ気持ちだったのが嬉しかった。
この幸せが続くと思っていた。
太一から与えられた苦しみから逃れられたと思っていた……。