絵美ちゃんは壊された左手を空にかざして言った。


「使えるよ、こっちも」

それから、スッとその手を降ろして、わたしに“手、出して”と言った。

わたしが左手を差し出すと絵美ちゃんはその手でわたしの手をギュッと、力一杯握った。

そして、急に放した。


「ただね、使いすぎるとこんなになるから」


絵美ちゃんの左手は激しく痙攣していた。


「だから、バスケはできない、本気は、無理だから」


何も返す言葉が見当たらなかった。


「もう、いいけどね。右手使えるから」


絵美ちゃんの表情には欠片も悲しさは感じられなかった。

黙り込んでしまったわたしに、絵美ちゃんは言った。


「これだから言いたくないんだよね、みんなすぐ同情する。わたしはもう気にしてないのが、なんでわからないかな」


イライラした口調だ。

だから、
絵美ちゃんはわたしに同情しなかったんだ―…

自分もいじめられてたから、いろいろ辛い思いも、嫌な思いもしてきたから、同情される悔しさも恨みも知ってたから。


「……また、考えてなかったな」


絵美ちゃんがわたしにしてくれたことの意味も、その真意も、言われるまで気づかない。

わたしは、ばかだ。

どうしようもなく、ばかだ。