昨日から心がざらざらする。

さっき、深秋に話しかけられた時にちゃんと笑えていたか今更、心配になる。

今は五人で話しているのに、内容が全然耳に入ってこない。


「明日音、聞いてる!?」


「えっ?ごめん、なんだっけ」


「ドラマだよ、昨日観た?」


観たわけがない。

そんな気分にはなれなかった。


その時、教室の空気が一瞬静まり返って、急にざわつきだした。


「松藤さん……来たんだ」


由利が呟いた。

すぐに、千英が由利を睨んだ。

絵美ちゃんはこっちに向かって来ている。

狭い机の間を松葉杖では進みにくいだろうに。

あいかわらず、絵美ちゃんはわたしを見ない。

もうすぐ、わたし達と隣を通る。

なにも、なければいい。

深秋や千英は絵美ちゃんの方を見ていない。

このままなにもなければ……


絵美ちゃんが丁度わたし達の横に差し掛かったとき、千英はスッと通路に足を出した。

危ないっと思ったときには絵美ちゃんの体が大きく前に傾いていた。

わたしはなにも考えてなかった。

とっさに立ち上がって、手を伸ばして、絵美ちゃんを抱き止めていた。

わたしは、松葉杖がカランと床に落ちる音で我にかえった。

教室が凍りついているのがわかった。

当たり前だ。

元・いじめられっ子が、いじめっ子の前で絵美ちゃんを助けたのだから。