沈黙のまま、部屋を出ると、いつの間にかおじいさんは帰って来ていた。

珍しくお客さんもいた。


「おっさん、来てたんだ」


奈都くんは知り合いなのか、お客さんと親しそうに話始めた。


「奈都!背、伸びたな」


奈都くんのお父さん?

年齢的にはそのくらいだと思う。

お客さんはわたしを見て驚いた顔をした。


「奈都の彼女か?」


違うし!、と奈都くんが慌てて否定した。

それからわたしを表情をうかがうように見た。

やめてほしい。

そんな目で見ないでほしい。

わたしのことを傷つけたこと、忘れてほしくないと思ってた。

だけど、そんな目で見てほしくない。

傷口を塞いだばかりの薄いかさぶたを、爪で引っ掛かれたみたいだ。


「栗本、こちら間宮明日音さん、奈都のクラスメートです」


おじいさんはわたしの前にココアを置いて微笑んでくれた。

栗本……?


「へぇ…じゃあ和真と同じ学校か」

……和真くん?


「おっさん、和真の親父さんだよ」


「えぇ!?」


改めてお客さんを見た。

横顔が和真くんだ。


「明日音ちゃん、栗本泰樹です。よろしく」


差し出された左手に戸惑う。


「さすがにおっさん握手は嫌か、ごめんな」


ははっ、と笑いながら泰樹さんは手を下ろした。

「深山みたいだ」