僕と和樹の部屋は、廊下を挟んで向かい合わせだった。
ベルボーイからキーと荷物を受け取り、チップを渡した。
向かいのドアの前で和樹が
「おい雅也君、あんまりチップをはずむんじゃないよ。後が大変だからな」
と叫んだ。
部屋はスイートじゃないかと思うほど広く豪華だった。
テーブルにはフルーツバスケット、ベッドサイドには生花が花瓶からはみ出しそうなくらい絢爛に活けられていた。
僕はラナイに出てみた。南国の風が頬を撫でる。僕は耳元で囁く里美の熱い吐息を思い出していた。
電話のベルの音が風を止めた。僕は部屋に戻って受話器を取った。
「俺だよ、和樹だ。ジョージを紹介するから部屋に来てくれないか」
ジョージは無愛想な男で、フィリピーノって感じではなかった。
彼は中国系のフィリピン国籍人で、現地工場の副社長だと紹介された。
(なるほど、日本人ぽい訳だ)
年は僕と同じ29だと和樹が言った。
(まあ、年相応かな、彼も髭は生やしてるけど)
僕はセブ島工場のスタッフは全て、ジョンやフレッドのような現地人だと思っていたので、いささか面食らっていた。