走ってる途中、僕は面白い光景を目にした。


昔、実家にあった夏の夜の虫除けの蚊帳みたいな巨大な網が張られた中に、ひな壇のように置かれたベンチがあり、そこで男達が座って手に手に小瓶のビールを飲んでいる。そんな蚊帳が道路沿いにいくつもあった。


上の段のほうが少しは風通りがいいらしく、混み合っていた。


(あれだけひしめきあってたら、上段でも暑いだろうに・・・)


「あぁ、ビアガーデンてとこさ。やつらの家にはもちろんクーラーどころか扇風機さえない。狭いわ、蒸し暑いわ、虫が来るわで、外に出て網の中で飲んでいるんだ」


網の出入り口には、冷えた瓶ビールを入れたクーラーボックスを足元に抱えた老人が一人スタンバイしている。


彼らは老人からビールを買って網の中に持ち込み、ただ並んで座って飲むんだそうだ。


道路わきのどの網も満員だったが、僕の見た限り女性は一人もいなかった。


照明は無く、近くの外灯や月の明かりが、その代わりをしていた。


やがてトラックは小高い丘の上にそそり立つ、ホテルの明かりを捕らえた。




いつの間にかすっかり日が落ちていた。