「私が気分悪くなっちゃって、心配してくれて…」

ただならぬ空気を読んだ私は、

「ホント、有難うございました〜。行こっ!」と、

隆志の腕を引っ張った。


そして、なんとなく振り返り、
まだ、そこに居る男の

鼻で笑ったような、
何か、企んだような笑みを浮かべた顔を、

私は見逃さなかった。

(本当、何なんだこの男は?)

「なんかあった?」

「ナイナイ!ナイよ!」

「ならイイけど、そんに否定するのも怪しいよ。」

「…」


あの男の言うことは、まんざら嘘ではなかった。

あの日以来、
電車の中やホームで、傘男の姿を、
ほんの少しだけ、
気にしてる自分に気が付くことがあった。


印象つけは成功していたということになる。


そんなある日、

高校生活で、一度も同じクラスになったことの無い女の子が、
私を尋ねてクラスにやってきた。

「恩田さんって、みっこって呼ばれてる?」

「え?…うん。」

「あのさ、2、3日前かな?駅でナンパされなかった?」

「…ああ、そんなこともあったかな?」

私は白々しく答えた。

「みーつけた!」

「な、なに?」

「あ、ごめんね!ひとりで盛り上がっちゃった、あたし!」

クラスの娘が、こっちを見てるのが気になった。