バレンタインシンデレラ

「あ!冬月くんいたー!」

その声に私はびっくりして飛び上がりそうになった。
そして次の瞬間女の子の集団が私の前を通り過ぎ、階段を駆け上がっていく。

「冬月くーんもらって~」
「バレンタインデーの」
「お返しいらないから」

頭上から女の子達がキャッキャ言うのが聞こえてくる。
聞き慣れているのに今日はなぜか鋭く胸に突き刺さる。

もうダメだ…。

それからすぐ後、私の前をいくつかの女の子グループが通り過ぎ、上から聞こえる黄色い声がどんどん大きくなっていった。
私はフラフラしながらなんとか立ち上がって、もう一度上を覗いてみることにした。
大勢の女の子に囲まれていても冬月くんは背が高いから頭一つ飛び抜けていて、顔がよく見える。
かなり困った表情を浮かべていて、キョロキョロキョロキョロしている。
lovefoxxxを探してるのかな。

でも、絶対ムリ。

私はそのまま背を向けトボトボと階段を下った。
踊り場を何回か曲がり、昇降口に出た。
げた箱からローファーを取り出し床にぽん、と放る。
それに足を突っ込みながら、私は肩を落とした。

あーあ、逃げちゃった…。
今日やっと会えると思ってすごく楽しみにしてたのに。
会ってもっと仲良くなってゆくゆくは…なんて想像が実現して高校生活がよりハッピーになるものと考えてたのに。
まさかhiverくんがあの冬月くんだったなんて。
はあ…。
惨めだ…。

床に爪先を立ててトントンやって、私は昇降口を出ようとする。
けどふと私は手に提げていた紙袋に目を落とし、立ち止まった。

なんかもったいないな…。
せっかく作ったのに。