その時、ふいに俺との会話が走馬灯のように彼方の頭によぎる。
『あ、あとよくは聞こえなかったけど、理事長がどうのこうのって…』
その瞬間、彼方の口元が緩んだ。
「…貧乳処女。あの女。本当にあなどれないな。」
（あの女、興味本意で首を突っ込むのはいいけど…。観奈の件にこれ以上踏み込むのは危険だな…）
と、その時。
『彼方様。もしもこの契約に違反するような事があれば、その時はご覚悟くださいませ。』
また回想が頭をよぎった。
それは、遠い昔の思い出の中の誰かの言葉なのだろうか。
彼方はビクッと背筋を震わせ、思い切り目を見開いた。
「え？くるみがどうかしたの？…」
観奈がそう言いかけたその時、彼方が突然観奈の腕を掴んだ。
「キャッ…」
観奈が顔を歪ませた瞬間、彼方は掴んだ腕と一緒に観奈の体ごと自分の胸に引き寄せ、そのまま両腕で彼女を思いっきり抱きしめた。
「な、何？いきなり…。彼方？」
驚いた観奈だが、すぐに彼方の体が少し震えていることに気づいた。
「いや、なんでもない。なんでもないよ。……ごめん。しばらくこうさせて」
彼方は目をつぶり、さらに観奈を引き寄せるように腕にギュッと力を入れる。
「う、うん…。いいけど…。」
理由はわからないが、観奈はそんな彼方を優しく受け入れるように背中に手を回し包み込んだ。
