「まぁ、保護してるのは本当、でしょ?」








「…。」








ゆっくりと、そしてはっきりした藤岡先生の声が響くと、今までにない空気が漂った。
この時の藤岡先生の笑顔は、恐いくらいに無邪気だった。







彼方は、なぜか藤岡先生の言葉の後に続くことはなく、完全に黙りこんでいた。
それも、何か追い詰められた表情をして。







なんだ?(^ω^;)







彼方のやつ、どうかしたのか?







俺は、この状況が理解できるはずもなく、ただただ黙り込んでる二人を見ているしかなかった。
その時。








「理事長、恐れ入りますが。」







そう言ったのは、藤岡先生の秘書だった。
彼女が深くお辞儀をすると、美しい黒髪がさらりと揺れた。








「本日19時より、三谷会長との会食のご予定が入っております。そろそろ準備に向かわれたほうが、よろしいかと存じますが…。」







「え?会食って今日だったっけ?」







藤岡先生がそう言うと、緊迫していた空気が崩れた。








「そうか、わかったよ。あ、そうだそうだ♪」







そう言うと藤岡先生は、ポンと手の平に拳を乗せた。








「ねぇ、芭悠里。僕ね、今日は緋色のスーツ着て行きたいんだけど、用意できるかな?」







芭悠里(ハユリ)とは、たぶん秘書の名前であろう。







「はい、承知いたしました。戻り次第準備致します。」








秘書、芭悠里は、快く笑顔でうなづいた。








「うん、頼むよ。ん〜。さーてーと…。」







すると、藤岡先生はぐぃ〜と大きく背伸びをした。