最愛の娘を目の前に、声を掛ける事も出来ない。


和子にとっては非常に酷な条件を突き付けたシチロー……これは、勿論和子の安全を考えての事であるが、その裏には和子の同行を諦めさせようという思いがあったのかもしれない。


電話の向こう側の和子は、暫く無言だった。



『…………』



「和子さん?大丈夫ですか?」


少し心配になったシチローが、和子に声を掛けてみる。


ところが、これで諦めるだろうと思っていた和子は、気丈にもその条件を受け入れたのだ。


『わかりました!
それでも構いません、かおりの顔が見られるのなら……私も一緒に連れて行って下さい!』


そこまで言われてしまえば、シチローにはもう断る理由が見つからなかった。


「そうですか……では、お手数ですが明日の午前十時頃までに事務所の方までいらして下さい」