外へ出れば、トウジか、トウジの手下たちがどこかに居るはずだ。
以前にも似たような事があったが、叫べばすぐに駆けつけてくれた。

「トウジ!トウジ!!」

雨音にかき消されないよう、出来る限りの大声で叫んでみる。

何度も何度も喉が痛いくらいに叫んでみたが、一向にトウジの姿が見えない。
それどころか、下っ端の連中さえも現れないではないか。

こんな時に、どうして。

そう思った時、昨日トウジが言っていたことを思い出した。


――明日は、会の集まりで夜はいねぇからよ。あんま変な客取るなよ


「誰か!助けて!!」

苦し紛れに枯れた声で叫んでみるが、ここは犯罪が日々横行するロンシャンタウン。
女の叫び声にいちいち反応してくれる人は居ない。

絶望にも似た感覚に襲われる。
店の入り口を見てみると、よろよろと男がこちらへ向かって来ていた。

「このアマ……」

逃げ、なくちゃ。

そう思うが、足がすくんで動けない。

「どうした、来ねぇのか?龍上の連中は」

あたしが口からデマカセを言ったと思ったのだろう。
龍上の手の者が来ないと確信した男は、余裕の笑みを浮かべていた。

じりじりと近寄る男。

逃げようとして動かした足に力が入らず、もつれて転ぶあたし。

泥水が、びしゃりと跳ねて雨に混じった。