「あなたの中に威千都さんが居るのは承知しています。……でも、いつか私に笑顔を見せてくれませんか?」
「っ!」
「また、会いに来ます」
去り際、いつも通りの折り目正しい丁寧なお辞儀なのに……。
その表情は見たことのない穏やかな顔をしていた。
威千都が婚約したならもうわたしたちの関係には完全に終止符が打たれた。
だからわたしの様子を見にくる必要もないはずなのに……。
雁字搦めだった心に隙間が出来る。
まだまだ苦しくて堪らないけど……いつかは解けて笑える日が来るかもしれない。
終止符の後。
まだ止まらない涙が涸れたら……笑顔の練習をしよう。
〈終〉

