「……匂いが移るからやめてっ」
「えっ?」
「他の女性の香りをさせながらそんなこと言わないでっ」
両手で押し返した威千都が驚いたみたいにわたしを見下ろしてる。
帰るところが無いって言った威千都は……やっぱり体を交わらせる為の伏線だったと確信させた。
「愛衣ちゃん……俺は愛衣ちゃんに」
「呼ばないでっ」
体を支配して心も手中におさめてしまう……。
威千都の好かれたいはそういうことなのかもしれない。
だからきっとさっきの女性にも同じように言い寄ったんだろう。
彼女に好かれる為に。
体と心を支配する為に……。
威千都がわたしを求めるような言葉を口にする程、不信感が胸を締めつけた。
突き放された威千都はただ感情の読めない顔でわたしを見下ろしてる。
そんな彼を置き去りに、わたしはアパートまでの道を再び走り出した。

