……こんな気持ちになるなら無理矢理にでも忘れてしまえば良かった。
違う。
出会ったときに威千都を受け入れるべきじゃなかったんだ。
もう何十回としてきた後悔がまた全身に広がる。
その瞬間だった。
「意外と速いんだね……。体育のセンセになっちゃえば?」
「っ!!」
しゃがみ込んだわたしの背中を包み込む一歩手前の体温がそこにある。
恐る恐る振り返った先に居たのは、
「愛衣ちゃん」
大人びた笑顔でわたしの髪に触れる威千都だった。
なんで此処に……?
反射的に浮かんだ言葉を口にするより早く、
「俺を……置いてかないでよ」
間近の体温がすっぽりとわたしを包み込んでしまった。
縋るみたいに一回り小さいわたしの体を抱きしめる力がきつく。
やっぱり威千都はわたしを求めてる。
そんなご都合主義な淡い期待が浮かんだ瞬間。
威千都の学ランからは甘ったるい香りが匂い立った。
これはきっと……さっきの女性の香り。
そう察した途端。
緩みかけていた体の力がギュッと威千都を押し返していた。

