たった一瞬だけ。 わたしの中に入り込んだ存在。 人懐っこさと大人びた笑顔を兼ね備えて、わたしを愛衣ちゃんと呼んだ声が耳に焼き付いてる。 帰るとこが無いと言った彼にどこか当てはあるのだろうか……。 油断すれば浮かび上がる威千都の姿を頭の中から必死に追い出した。 これは一夜の夢。 ……きっとすぐに忘れてしまう。 夜が明けてしまえばまた、平凡でつまらない日常が戻ってくるだろう。 威千都の匂いの残る布団に身を沈めながら、夢の名残を打ち消すように硬くまぶたを閉じた。