「嬉しかったんだ。……立場とか関係なく、俺を家に入れてくれたの」
「…………」
「ご飯作ってくれたのも」
わたしが作ったご飯を美味しいって食べてくれたのが嬉しかったように。
威千都にとってもわたしの作ったご飯は嬉しいモノだったらしい。
威千都はどんな顔でそんなことを言ってるのか。
気になるけどここで振り返ったりしたらきっとさっきの二の舞。
また絆されて体の繋がりを求められる。
そう思ったら威千都の言葉を受け入れることが出来なかった。
背中で拒絶を続けるわたしに口を噤んでしまった威千都との間に重苦しい沈黙が漂う。
鈍い空気の流れが充満する直前、
「ごめん……」
わたしが畳んだ濃紺の制服とカバンを無造作に掴んだ威千都が隣を横切っていく。
通り過ぎ様に聞こえた声に去っていく背中がわたしの全身を巡った。
バタンという扉の閉まる音を残して威千都は出て行ってしまった。

