流されて断れなかっただけ。
正直に答えようとしたら喉が詰まって声が出なかった。
“優しいね、センセー”
斎木くんが呟いた言葉が胸に響いていく。
流され続けてた人生だけど、さっき自分で出した答えが間違いじゃないって認められたみたいで。
頭の中でずっとモヤモヤしてたモノが少し軽くなった気がした。
何も言えずにおずおずと封筒を受け取ったわたしに、
「ねぇ名前教えて」
「……有川」
「そっちじゃない。名前を教えて」
浮かべた笑顔はやたらに大人びていて、さっきまでの人懐っこい笑顔がわざとだったことに気付く。
人懐っこい笑顔で相手に取り入り、心の内を射るような言葉で相手を捕らえる。
ただ年齢を重ねただけのわたしなんかよりずっと上手(うわて)だ。
「有川……愛衣(めい)」
「俺は威千都(いちづ)だよ、愛衣ちゃん」
サラリと呼ばれた名前は思ってたより自然とわたしの中に入ってきた。

