その日の帰り道。
わたしはこの街にきて、初めての“彼”を見た。
裏路地で、数人の男たちに囲まれている彼。
「ーーーこいよ」
初めて聞く低い声。
喧嘩の時は声が低いってよくわたしも言われていた。
たった一人で数人の男達を地面に倒していく。
「テメェ」
「覚悟しやがれ」
強い。
綺麗で無駄のない動き。
しかも少し手加減もしている。
気配を消して、彼の喧嘩をずっと見ていた。
「てか何で俺が狙われるんだよ」
「テメェが俺らのシマを荒らしたんだろっ!」
「いや、何もしてねぇし」
「知るかっ!!」
相手の力任せの拳が飛んでくる。
「ーーー本城のくせに、逃げてんじゃねぇっ!!!!」
ボコっと、かなり酷い音がした。



