そんな中で外交に力を入れたアドラシオーは教会の教えを否定せず、今までの世界観を完全に否定してみせた。

 おかげで名誉貴族の付け入る先は王一人となり、多くの民衆は不自由にはなったが、争い事にはならず、巻き込まれもせず無事、生を全うした。

 国王には一人の息子がいたが、彼に国王の座を受け継がせる気があるかというと、そうではなかった。

 王はただただ、かわいい息子を敵地にさらすのが不憫でならず、いっそ教会で妻には内緒で一生を過ごさせようかとさえ考えていた。

 春になればヒナギクを喜び、夏になればヒナゲシを愛し、秋には野山の散策に共に木の実を拾いにゆき、冬になれば風が入らないように、色模様の美しい上質のタペストリーを部屋にかけてやる。

 王子には剣など片手間でいいのだ、と王は考えていた。