~天は赦さる~<~天へ送る風~完結編>

「育たないままの赤ん坊にすぎないぼくちんを相手にするものはいなかった。ぼくちんは自由を満喫したじょ。だけどああ、ここには醜いものばかりある」


 見たくもないものが、と目をつぶった。

 垣間見えた彼のトパーズ色の瞳は悲しみにゆがんでいた。


「そして悟ったじょ。このボクも、彼らのように醜いままだと。心ばかりが老いた赤ん坊だと」


 ここの牢屋に入れられてほっとしていた。醜いものから守られている気がしたから。
 
 でもそれは逆。

 醜い自分を隠すため、閉じ込められていたのだ、と彼は語った。


「考えてみればぼくちん、大体が実験動物でしかなかったのだじょ」


 どう言うことだろうか、語り終えると彼はそのまま黙りこくった。

 涙の女性はこう、言った。


「わたくしはのろわしい運命の女。恋に破れ、裏切られ、希望を無くして、だれ一人として信じなかった。臆病な不信の心が私を冥府に堕としたのだわ」


 だから王子、あなたのことは信じることにしたの、とぽつぽつと話した。

 アレキサンドラには興味深い話だったが、まさか傷痕をほじくるようなまねはできない。