「思い出せるように、僕が手助けしてあげる」

 しばらくその時が流れた後に、ふいに純が口を開いた。
 その声には、名案が浮かび上がったといわんばかりの嬉しさが表れている。

「手伝えば、きっと思い出せる」

「手伝ってくれなくても、あなたが言う『忘れていること』を教えてくれればいいんじゃない?」

「え」

 純はそのまま黙ってしまう。再び訪れる静寂。
 なんでそこで黙るのよ……、と莢は心の中で悪態をつく。ふいに空を仰ぐと、いつのまにか雪の粒は大きくなっている。
 鞄の中から携帯電話を取りだし、時間を見る。驚くことに、純に会ってからまだいくらも経っていない。
 静かな時が2回もあった為か、長く感じたのだろう。
 ふとそこで、爽はまた違和感が生じる。

「鞄……」

 この場所が静かでなければ絶対に聞こえないであろう、小さな声で純は囁く。
 莢は生まれたばかりの釈然としない何かを感じながらも、ひとまず携帯から目を離し、純へと視線を移す。
 純の瞳は、莢には向けられてはいない。