「こんにちは。今日は雪だね」

 今日も莢は木々に囲まれたこの場所へとやってくると、切り株に腰掛ける彼がいた。笑顔で話しかけられる莢だが、それに答えず、空を見上げる。白いものがぱらぱらと見上げた先から舞い落ちてくる。

 雪だ。雪が降っている。

 そこで莢は心にかすかな違和感が生じたことに気付くが、それは一瞬のうちにかきけされてしまった。純が話しかけてきたからだ。

「何か思い出した?」

「…何も」

「そっか。残念」

 そう言う純の苦笑している顔を見ると、莢は罪悪感でいっぱいになるのを感じた。しかし思い出せないというより、忘れていることなんて元からないのだから、仕方がない。
 なんと返答したらわからず、言葉を失う。言うべき言葉が見つからない。
 純にしたらどうだかわからないが、莢にとって、気まずい沈黙が流れる。