「そっか。そうだよね」

 少年は苦笑し、ゆるやかな動きで立ち上がる。その途中、僕は純(ジュン)、と名乗る。
 莢はその名前を心の中で何度も呟くが、やっぱり聞いたことのない名前だ。

「で? どうしてこんな所にいるの?」

 ここは私の場所なのに、と言いたい衝動を抑える。なぜなら、この場所は莢の所有物ではなく、そんな権利など持っていないからだ。
 純と名乗る少年は、莢と挨拶を交わした時の微笑みを浮かべる。





「……君がいるって思ったから」





「え…?」

「いや……いるって知っていたから……かな」

 言っている意味が分からないという表情をする莢を差し置いて、純は満足そうに笑む。
 少しでも心の中を知ろうと莢は純の顔を凝視するが、にこにこしている純の表情からは何も読み取ることができない。