「今日はね、一年でたった一度だけたったひとつの願い事を叶えてくれる日なの」

 ふいに莢は僕に語りかける。ほとんど独り言に近い状態だが、視線の先は僕にある。
 

  僕、そんな日があるなんて知らなかった。


 莢の耳に届くことはないと分かっていても、答えずにはいられない。

「子どもは贈り物をされるのよ。私のような子どもと大人の境界にいる子は、願いが叶えてもらえるの」

 僕の返事の合間をきちんとおいてくれる。これが莢のいいところ。


  じゃあ、君は願い事を叶えてもらうんだね。
  君の願い事は何なの?



「わたしの…願い…ごとはっ……」


 冷たい。
 室内に雨が降っているわけじゃないのに頭が冷たくて濡れるなんて、もしかして。