「君は……誰の目にも映っていないんだ」

 その言葉を聞いたのは、誰もいないエレベーターの中だった。
 箱は、5階を目指し上へ上へとゆっくり上昇し続ける。

「受け付けにいた人は……いない人と手を繋いでる僕を不思議に思ったんだと思うよ」

 純は莢に気遣ってか、伏し目がちに言葉を選びながら慎重に話す。
 自分が思っていたこと以上に救いのない事実に衝撃を受けたが、そんな純を見ていたら取り乱す訳にもいかず、かと言って、何を言ったらいいのかも分からない莢。

 結局、気まずい静寂に包まれ、のらりくらりと呑気に動く箱をふたりは恨みながら、5階へ到着するのをひたすら待つしかなかったのだった。