「来て、莢」

 行きたくないはずなのに、純に手を引かれると莢の足は動き出してしまう。
 中に入り、受け付けにいる女性がふと目に入る。するとその女性は訝しげに純と莢を見ている。

「眠っているはずの私が、うろちょろしてたらおかしいんじゃないの?」

 女性の不振な目つきがなんであるか理解した莢は半歩ほど先を歩く純に問いかける。もちろん小さな声で。

 けれど、純はそれには答えなかった。しかし、莢が聞いたとき、一瞬、表情が凍り付いたのを莢は見逃さなかった。