「とりあえず忘れないうちに」


彼がおもむろに鞄からCDを出して手渡してきた。


「本当に持ってきてくれたんだ…超懐かしいんですけど」


「そうそう。引越しの準備で部屋片付けたら出てきてさ。
このアーティスト、若菜のおかげで好きになったんだよなー。2人でライブとかも行ったよね」


そういえばそうだった。
大学時代から私のろくな趣味といえば映画と音楽鑑賞くらいで…
前者は恵司の方が詳しかったから、その代わり音楽に関しては私の趣味を半ば強引に押し付けていたんだった。


「このアーティスト、当時から若菜に似てるなって思ってたんだよね。
ちょっとひねくれたものの見方とか、そのくせ繊細なメロディーとかさ」


さっきから彼の口から私の名前が出るたび、変に顔が火照るのを感じた。
そして彼の目に私はそんな風に映っていたのか。

言い得ていすぎて少し悔しい。