それを聞いて彼は微笑んだ。


「相変わらずかよ」


相手も同じことを思ったと思うとなんだかおかしくなって私も思わずくすっと笑ってしまった。
隣に彼が腰かけて、彼の体温が伝わると私の心臓がうるさく鳴り出す。


「僕が心配する必要もなかったみたいだね。
恵司くんは何飲むの?」


とりかたの分からない私たちの距離感を察したかのように、バーテンダーが口を挟んだ。


「とりあえずビールで」


こういうお店にきてオリジナルのカクテルを頼みたがるのは、女性だけなのだろうか。
以前から一緒に来たところで彼が頼むのはビールかウイスキーだった。
その味に飽きた時、私の甘い飲み物をなんの悪気もなく自然と口にしていたことまでこの一瞬で思い出す。


不思議なもので、あれだけ彼のことを忘れようと他のことに注意を逸らしていたのに、
私の記憶の中には見事に彼との思い出がしっかり残っていたらしい。