口づけ以上のことも望んでしまったことがある。

 いつがそうだったかは忘れてしまったが、重ねた唇の暖かさにえもいわれぬ快美を感じ、彼女の反応を思い出し、吐息をついた。

 あの調子では彼女も初めてだったろう。

 彼女も学習はしてるらしく、順応力があって、帰りにすれ違ったときに捧げた二度目の口づけを、彼女は甘んじて受けた。

 きれいな瞳を閉じて、まつげをほんの少しふるわせて。

 じっと息をひそめていた。

 恋人のキス。これでリックは自分のものだと思った。

 実際は小鳥がついばむような小さなものだったが。

 だけども、少年の中には猜疑も独占欲もある。

 下町らしいアレキサンドラの軽快な口調とそれまでの彼への無関心が凍るような胸に突き刺さる。