マグヌスは月光に向かい、救いを求めるかのようにつぶやきを漏らした。


「止めるはずだった。止められるはずだった……マグヌム! 我が弟よ! 死んでしまったのか? 夜闇に紛れて私を苦しめるのか?」


 大きく両腕で円を描くようにしてまじないの仕草をして、弟の姿を探しているようだ。だが心は乱れたまま、魔術は発動できなかった。

 大きく泣いた。その声は聞こえなかったけれど、苦悶にあえぐように、身を折ってがくがくと地に伏し、爪を立てるようすは、とても一国の名宰相の姿には見えなかった。

 ……老いた、と言ってしまってもおかしくなかった。

 ……老いてしまわれた。最愛の者を失ったあまりの心痛のため。

 アレキサンドラは嗚咽(おえつ)を禁じ得なかった。必死で口元を抑え、あふれる涙をこらえようとしたがかなわなかった。