口が痛かった。
板チョコがちっとも溶けなくて、口を限界まで引き延ばし、ボクの口から血が出そうだった。
ボクは泣いた。
父は放っといてくれた。
きっと、それどころじゃなかったんだろう。
しばらくして、
「チョコはどうしたんだ?」
と……父はボケちゃったんだとばかり思って、ボクは哀しかった。
うつむいていると、えいちゃんが現れた。
それを見て父は腰を浮かせた。
どうやら、彼が来るってことは前もって知らされていたらしい。
一族全てが異端ならば、そこにいるだけで普通のひとは異端になってしまう。
ごくりと唾を飲む父のズボンの脚につかまって、ボクは彼を見ていた。



