「そんななまくら刀で俺を倒すつもりか?」
 余裕の笑み。そして何か言葉を小さく唱えると、太刀を大きく振る。強い風が太刀から渦を巻いて起こり、そこにいた八人を一気に倒し、気を失わせた。そして身につけていた鎧だけが砕けた。
 トン、と軽い足音を立てて、セントは地面に足をついた。振り返って言う。

「逃げるぞ」

 見惚れていたのか、と自問し頭を振る。近衛は荷物と王女を抱え直し、セントの後に続いて走った。
「どこへ」
 と走りながら聞く。城壁の中はもはや敵ばかり。

「森だ」
 セントも走りながら答える。その間にも何人かの反乱兵に出くわし、仲間を呼ばせる前に刀を払った。

 セントは北門を目差していた。門、と言っても北門は通用口に過ぎない。城の影になり月光も届かないその門から、城の外へ出られると踏んでいた。城外へ出てしまえば、すぐに森である。セリス国の首城はぐるりと森に囲まれている。
 案の定、北門に兵士はいなかった。簡素な戸は容易に開いた。二つの影が、城から消えた。