一人で行く、というのは気楽なものだ。三人で進むには一日かかった道則も半日とかからない。しかし、過日と比べて町が乾いている。遠くに見えるハートリックニアの城の高い塔。白い城壁がくすんで見えるのは、何も天気のせいだけではない。

 子どもが、いた。
 服は粗末。埃の舞う街にうずくまっている。
 視線に気付いたか、顔を上げた。セントを見て、その子供はあわてて建物の影に隠れる。セントはその後を追う。子供の顔に見覚えがあった。

 しかし、向こうは何故逃げる……兵士だから? ああ、背中の太刀か。
 気づき、刀を消した。

 足の速さの違いは歴然としている。じきに子供に追い付いた。
「……ルース!」
 子供の名を呼ぶ。子供、いや少年。

 名前を呼ばれ、少年は振り返った。セントはその腕を掴む。
「セント兄……」
 自分を確認し、ルースが力を抜いた。しかし一瞬後、再び逃げの姿勢に。
「大丈夫だ、俺は孤児院を襲った連中の仲間じゃない。お前のことを捕まえたりしないから」
 セントの言葉にルースは頷いて姿勢を解いた。そして皮肉たっぷりに言う。
「今、腕をつかまえたじゃん」