「ニコイ、ニコイ!」
 誰かが自分の名を呼んでいる。しかし妻の声ではない。どこへ行ってしまったんだ、サラ。
 ニコイは長い長いため息をついた。
「おい、ニコイ!!」
 しつこい奴だ。そっとしておいてくれ。ああ、サラ……。
 うなだれる。
「ったく」
 不意に、ニコイの視界に見慣れないブーツが入ってきた。驚いて顔を上げると、
「……セント!?」
 ゴボ、と咳払い。声が裏返ってしまった。
 どこから入ったんだ?
 昔の遊び仲間で今は義弟が言うには、直ちに裏の森に来い、と。その意味を咀嚼しかねているうちに、セントは、消えた。