「おかえり」
 父王は言った。
 母が感涙した。
 祖母は亡き先王の遺影を見た。
 弟はふて腐れながら迎えた。
 ジンは家族に最敬礼をとった。
「ただいま、帰りました」

 煩雑と思われたことは、存外にすんなりと処理できた。それは、王子としての息子を完全には消さなかったシュトゥーヘン王の才知に依る処が大きい。第一王子、ジン=シュトゥーヘン。本名は欠伸が三つは出るほど長いのでここには載せない。


「不思議な感じよ」
 キュアは言う。
「あなたは私の近衛だったのに。今は王子様なの」
「すみません」
 王子様はそんな簡単に謝るものではない、とキュアは思ったが口には出さなかった。きっとこれから変わっていくのだろう。
 月夜の暗闇の髪、蒼天の瞳。大陸の最東に位置する国、シュトゥーヘン。シュトゥーヘン、とは「夜と昼を支配する」という意味だ。正に。

 王子に戻ったジンをキュアは受け入れた。
 存在する立場の違いに多少戸惑ったが
「私は私です。あなたの傍にいること、あなたが傍にいることが幸せと感じる者です」
 と物怖じせずに言うジンは、確かにキュアの知るジンだった。今まで傍にいた人で、これからも傍にいる人なのなのだ。キュアはジンの胸に体を預けた。

 そして、ジンとキュアは結ばれた。季節は春から夏へ替わるころ、澄んだ風が吹くと、緑がきらきらと輝いていた。それはどこか、セントの笑顔に似ていた。



Fin.