そう言って
最後に俺に振り返って、ニッコリ笑うと
「がんばれ、少年。」
マスターは控え室を後にした。
深い色をした木目のドア
白熱灯の暖かい光に、うっすら聞こえるアンナの歌声。
ふと顔を上げると
窓の外には満天の星と
寄せては返す、海の波音が広がっている。
「行動しなきゃ後悔も失敗も栄光も味わえない……か。」
暗く広い海を見ながら俺はポツリと呟く。
アンナが好き
今の俺には、これしかない。
大人みたいに、この気持ちが恋なのか憧れなのかなんて考えられへんし、この気持ちに名前をつけろと言われてもよくわからへん。
でも……
マスターのいう通りやな。
行動しなきゃわからない。
行動した者だけが、その意味を理解する。
……しゃーないなぁ……。
傷つくんは怖い。
傷つけられるんも怖い。
せやけど、見えへんモンに怯えてアンナを失うはめになったら、きっと俺は死ぬほど後悔する。
それなら……
耐えるしかないんかもしれん。
ここから先に繋がる未来を
アンナと一緒に夢見たいなら
自分が傷つくことを恐れてる場合じゃないのかもしれへん。
窓の外に見える下弦の月を見ながら
俺はそう思った。