ボクがキミをスキな理由【短編集】


そして……
その次の日の夜は
昨日よりも、もっと線の細い三日月


下弦の月の夜だった。




月明かりのほとんどない、
暗闇に近いほどの夜の道を
俺は必死にチャリンコを走らせる。




エスプレッシーヴォは海岸沿いにある小さなジャズバー




低い海鳴りと
吹き荒れる冬の風の声を聞きながら
俺は星空の中、チャリンコを漕いでいた





少しずつ近づく明かりを頼りに自転車を漕いでいると、その光はだんだん近く大きくなり、耳元にはうっすらとピアノの音が聞こえ始める。




人々の談笑の声
かすかに響く古いLPレコードの音




それらをBGMにしながら俺は自転車を止めて、エスプレッシーヴォの扉をギィィと開く。





「こんばんは……。」





その中は相変わらずの別世界
高そうなワインに高そうなディップ
金色に光るシャンパンに高級な音楽の広がる世界



なんともいえない居心地の悪さを感じながらキョロキョロしていると




「やぁ、いらっしゃい。
久しぶりだね、レオくん。」




シルバーグレーの髪をした、この店のマスターに声をかけられる。





「あ、どうも。
お久しぶりです、こんばんは。」




丁寧に頭を下げて挨拶すると




「アンナに話は聞いてるよ。
いつもの席…リザーブしてるから、座りなさい。」




マスターは店の一番端にある、小さなカウンターを指差す。





――よかった~~!!

こんな場違いなフロアーに放りだされたらどうしよう~~!!って思ってたんや!!





ホッと胸を撫で下ろしながらマスターの指差すカウンターに腰を下ろすと、ざわざわとしている店内の明かりが少しずつ暗くなってきて…ステージの照明が強くなる。



そして…
完全にステージの照明が強くなったとき、人々の拍手の嵐の中から歌手・Simbaが現れた。