他の桜はもう散りかけているのに、この桜は満開だった。


「うわぁー……。綺麗……」

満面のピンク色に感嘆の声が漏れ出す。
こんな大きな桜が咲き乱れているのは初めて見た。思わず見惚れてしまう。



樹齢何百年は経っているらしい。注連縄がしてあるので御神木なのだろう。不思議なオーラさえ感じられる。

周りには誰もいないみたいだから、ここはおそらく穴場。ここで花見なんてできたらすごく気持ちよさそうだ。



「なんか、大発見!!」


さっきまでブルーな気分だったけど、一気に明るくなった。


真下から見ると桜の枝と青空がシンクロしている。ピンクと青。最高のグラデーション。



「んー……」


身体を伸ばし、反対側に回ってみることにする。



その時。

眼前に黒い物体が轟音を立てて飛び込んでくる。


「ぎゃあ!?」


花の女子高生としては、相応しくない悲鳴を上げた。
私の目の前に、何がが落ちてきたのだ。驚きのあまり、尻もちをつく。


「な、何……!?」


心臓をバクバクさせながら見上げると、景色が変わったように感じた。

私は目を瞬かせる。


透き通った茶髪、凛とした眉、整った顔立ち、全身雪景色と言っていいような高級なコートを纏っている超美男子が私の前に現れた。

今まで見たことないような男。


まるで、異国の王子様を思わせるような奇妙な感覚。


「何だ、お前は」


その男らしい声にハッと我に返る。あまりの美形に魅入ってしまったのだ。
幸いにして、腰は抜けていない。すくっと立ち上がる。


「す、すみません!! 失礼します」


頭を膝につく勢いで下げると、素早く背中を向けた。怖くて一度も振り返らずに全力疾走する。