音が止まった。
等々力先輩は振り向いて、ばっちり私と目が合う。


「え・・・えっへへー・・・・」


何とか苦笑いで誤魔化す。しかし、等々力先輩は無表情だった。


「早乙女さん・・・・?」


「ご、ごめんなさいっ。綺麗な音楽が聴こえてきたから、何かなって思ってて・・・・」


「僕に用ってわけじゃないのですね」


「用っていうか、何というか・・・・」


「・・・・吹いてていいですか」


私がしどろもどろしてたら、バッサリと斬られてしまった。


「ど、どうぞ!どーぞ!!」


彼は目をつぶり、銀色に光るフルートに唇を近付ける。


♪~♪~♪~♪~♪~


まるで、夢の世界へ誘われたかのよう。心地よくて、ちょっぴり切ない。


(何の曲だろう・・・・)


聴き覚えはない。もしかして、有名な曲?でも、そんなことはどうでもいい。普段、クラシックなんて聴かないけど、これは一日中聴いててもいいと思った。


♪~♪~・・・・・・


音が聴こえなくなった。どうやら、曲が終わったらしい。


「・・・・早乙女さん?終わりましたから、もういいですよ」


私はハッと我に返った。終わったと知ってちょっと残念にも思ったが。


パチパチパチパチ


「すごーい!とても素敵でした。何て曲ですか?いい曲だから、帰りにCD買いに行きたいです」


拍手と発言に等々力先輩はきょとん、としていた。


「CDなんてありませんよ。僕の即興曲ですから」


「つまり自分で作ったってことですか?」


「はい」